縣 秀彦

国立天文台・准教授
天文情報センター普及室長
1961年長野県八坂村(現大町市)生まれ

 

宇宙を解き明かしたい。いったい、いつ人類はそんな野望を思い立ったのでしょう。

天からの文を読み解く学問、天文学は音楽や数学と並んで五千年以上の歴史を持つもっとも古い学問の一つと考えられています。地上に人工の明かりのない時代から、日々、時々刻々と変わる星ぼしの位置を測り、時刻を知り暦を作ることは文明の発祥とともに必要でした。一方、きっとその当時も今と同じく、星空と対峙するたびに「私は誰?ここはどこ?」、または「宇宙において私たち人類は孤独な存在なのか?」などと自問自答を繰り返してきたことでしょう。星空は古くから人びとのロマンと好奇心の対象だったのです。

いま、天文学は旬を迎えています。人類の根源的な問いでもある「私たちはどこから来てどこに行こうとしているのか?」、「私たちは何者で、宇宙には私たちのような生命が住む星は他にあるのか?」という二大テーマが、最新天文学によって、いよいよ解き明かされそうとしています。といっても、宇宙の謎は深淵。どちらの謎解きもうまく行けば今世紀中にはといった段階かもしれません。しかし、目を見張るような研究成果が近年、次々と発表になっています。

例えば、宇宙は138億年前に微小な空間がインフレーションを起こすことによって誕生し、ビッグバンによって今でも加速しながら宇宙全体が膨張しているたことが明らかになりました。観測と理論が導く最新宇宙論によると、宇宙は膨張と収縮を繰り返すのではなく、このまま膨張を続け、いつの日か冷え切ってその週末を迎えます。そして、私たちが眺める星や銀河、すなわち宇宙を構成している元素(正確にはバリオンと呼ばれる素粒子)は、この宇宙全体の質量のたった5%程度に過ぎず、残り27%がダーク・マター、68%がダーク・エネルギーという得たいのしれない重力源とエネルギーによって宇宙が構成されていることが明らかになりました。この2つのダークの謎解きはまさに始まったばかりです。また、初期宇宙でなぜインフレーションが起こったのかも分かっていません。

一方、宇宙で私たちは孤独な存在なのか、そうではないのかの結論は意外に早く分かるかもしれません。身近な太陽系内を直接探査で調べると、火星などに単細胞生物程度が存在する可能性はいまだ否定できませんが、知的生命体=宇宙人が私たちが移動可能な太陽系内に存在していないことは残念ながら明らかです。

宇宙人が居るとしたら、太陽系の外側、星座を形作っている恒星たちの周りの惑星や衛星においてでしょう。1995年以降、太陽系外の惑星(系外惑星)が次々と発見されるようになり、今日現在1200個を超える系外惑星が確認されています。発見された系外惑星の多くは、直径が地球の数倍以上ある木星のような巨大ガス惑星ですが、地球サイズの惑星も次第に見つかりつつあります。地球以外の天体に知的生命体が住んでいるとしたら、豊富な液体の水(海)や酸素やオゾンなどの大気に覆われている惑星をまずは候補と考えてよいでしょう。

惑星が恒星に近すぎるとその表面の水は蒸発してしまいますし、遠すぎると温度が低すぎて氷になってしまいます。恒星からの距離がちょうどよく、液体のまま水がその表面に存在できる領域をハビタブルゾーンと呼びます。ハビタブルとは居住可能という意味です。ハビタブルゾーンの範囲はその中心の恒星が出すエネルギー量によって異なりますが、太陽系の場合、0.8~1.5天文単位程度、つまり、地球から火星ぐらいまでの距離の範囲です。

しかし、この範囲で液体の水が豊富にあるのは地球のみで、月や火星に存在しないのはなぜでしょう。それには天体の重さが関係しています。月には大気を留めておくだけの重力がなく、一方、火星は地球の十分の一の質量しかなく、このため惑星としての進化が速く、液体の水が表面に大量にあった時期は過ぎ去ってしまったと考えられているのです。

太陽に近いご近所の恒星たちを詳しく調べ、ハビタブルゾーンに存在する地球サイズの惑星を探し出し、その大気の温度や組成を調べることが宇宙人を見つけ出すもっとも確実な方法です。そのために、国立天文台では、米国、カナダ、中国、インドとの国際協力によって次世代大型望遠鏡TMT(サーティー・メーター・テレスコープ)の建設を始めました。

もし、知的生命体の発見が現実のものとなれば、私たち人類の価値観は大きく転換し、1年先とか目先にのみとらわれてしまっている今の生き方を問い直すことになるでしょう。太陽系外に住む宇宙人との電波交信には、一往復数年以上の時間がかかるので、気の長い生命体に人類は生まれ変わる必要があるのです。

2021年、東京オリンピックの翌年にTMT望遠鏡は完成予定。オリンピックの次には、宇宙の中で地球以外の星に生命体発見の夢を、世界中の人々と共有できればと願っています。

 

写真左:TMT(サーティー・メーター・テレスコープ)
写真右:TMT関連資料

国立天文台リンク:http://www.nao.ac.jp/