今月の本:ローマ法王に米を食べさせた男-過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?-
著者:高野誠鮮
単行本:講談社(2012)

 

「UFOで町おこし」「NASAから本物のロケット購入」「『酒が飲める女子大生』で話題作り」「神子原米のローマ法王への献上」…

今回ご紹介するのは、文字ずらだけ見るとなんだか突拍子もないような内ことをやってのけたスーパー公務員、高野さんの本。

「可能性の無視は最大の悪策だ!」というモットーの元、「人を巻き込む」「何かを実現する」ために必要な秘訣がたくさん詰まった本だ。「人を動かす方法」はそれぞれでお読みいただくとして…

 

野菜は腐らない

この本は、人を動かすだけではなく、生物多様性や日本の農業を考えるうえでもとても参考になる。

「野菜は腐らない」という指摘には本当に驚かされた。

普段購入する野菜は、冷蔵庫に入れておいても、腐ってしまう。それが自然の摂理で仕方のないことだと思っていた。そうしてダメにしてしまった経験を持っている人は多いはずだ。

筆者は、自然栽培を通じて、野菜が「腐る」ことがおかしいと考える。

自然の中ではすべては色づき、やがて枯れていく。これはあらゆる植物に共通していて、買ってきた野菜のようにドロドロになることなんてない。

「枯れる」はずの野菜がなぜ「腐る」のか?

例えばリンゴ。切り口をそのままにしておくと酸化して茶色くなり、やがて腐る。酸化を防ぐために塩水につけるというのは生活の知恵だ。

でも、農薬や肥料や除草剤を使わないで作られたりんごは、どんどん枯れて小さくカサカサになる。すりおろして一晩空気にさらしておいても色が変わらないそうだ。

茶色くなったり腐ってしまうのは、化学肥料や農薬を使っているから…

 

虫食い野菜はおいしい証拠?

さらに、「虫が食べている野菜はおいしい」という考えも間違いだ、と筆者は指摘する。

虫が食っている野菜はおいしい証拠、と思っていたが、虫がつくというのは、未完熟な堆肥や化学肥料を使って硝酸濃度が高くなっているために起こることなんだとか。

肥料を使うから虫が来て、人は殺虫剤を使わなくてはならなくなる。

多くの農家の方たちは、代々雑草が虫の温床、害虫の温床になっていると教わってきた。だから雑草が生えると害虫が増えて稲の生育を妨げる、品質を悪くすると思っている。

悪いものは排除する発想だ。

自然栽培の田んぼでは、周りが雑草だらけでも、虫が来ればカエルに捕食される。そもそも、化学肥料を使った時のように、作物を食い荒らしてしまうような虫は来ない。

 

不要なものなんてない

地球上に存在するものの中には不要なものなんてない。

余計なものだ、いらないものだ、と人間が考えているものは実はとても大切な役割を持っていて、目に見えない微生物とのやり取りがあったりと相互に関わりあって存在している。

そうやって46億年歩んできた地球の生態系を、たった数千年前に活動を始めた人間が、必要なものと余計なものを判断なんてできないのかもしれない。

当然だ、常識だ、と思っていることも、きちんと自分で考えてみることが必要だということに気づかせてくれる本だ。