今月の本:「いのちの王国」「動物園にできること」

 

「いのちの王国」

著者:乃南アサ

単行本:毎日新聞社(2007年)/文庫:文春文庫(2011年)

 

「動物園にできること―「種の方舟」のゆくえ」

著者:川端裕人

単行本:文藝春秋(1999年)/文庫:文春文庫(2006年)

 

小さいとき、動物園が大好きだった。

上野動物園で買ってもらった動物の写真集を、名前を覚えるまでめくっていた。

井の頭公園も、多摩動物園も大好きな場所だった。

江ノ島水族館ではマンボウの大きさに驚かされた。

 

みなさんも、小さいとき、動物園や水族館が大好きではありませんでしたか?

 

今、その動物園に変化が訪れている。

 

日本の動物園関係者に、当時大きな衝撃を与えた、といわれるのが、川端裕人の「動物園にできること」だ。動物園への批判として、狭い檻の中で動物を飼うことに対する批判がある。動物園先進国アメリカでは、「生態型展示」と呼ばれる、動物の生息環境をできるだけ忠実に再現する展示方法がとられるようになった。日本の水族館でよくみられる、イルカのショーなども、動物虐待だとする意見も根強い。

 

もちろん動物園の大きさの問題もある。歩いて回りきれないような広さを誇るアメリカの動物園ならでは、という事情も考慮すべきだ。だけど、動物の生態を見せる展示方法にすることで、動物園がもつ役割である「環境教育」は飛躍的にその意義を深めているのだと思う。

 

そして種の保存と繁殖についても、データ構築とそれに基づく繁殖計画の実施と絶滅危惧種の保護など、動物園ネットワークも充実している。20年前に発行された本であると考えると、その先駆性に改めて驚かされる。

 

「動物園にできること」が海外の動物園の事情だとしたら、乃南アサの「いのちの王国」は日本の動物園からの回答だ。

 

乃南さんといえば、女性に圧倒的な人気を誇るベストセラー作家だ。そんな乃南さんが、動物園のエッセイを書いている!思わず本屋で手に取って、レジまで直行した。

 

乃南さんの動物園への眼差しは、川端さんの動物園への視線とは少し違う。川端さんは動物園を「観察」し、「分析」「評価」を行っているが、乃南さんはあくまでも「楽しんでいる」。一般の来園者と同様にコースを回り、感じたこと、考えたことをさらりと書いている。

 

視点はあくまでも来園者。だから人気の旭山動物園にも「じっくり眺められない」と手厳しい。うん、確かにその通り。動物園はのんびり、楽しみながら回るものだ。

 

乃南さんの文章を読むと、自分が行きなれた動物園を発見する。アメリカの成功例や旭山の展示方法に刺激されたのか、各地の動物園の変化が紹介されている。それが面白い。地方ごとに、保護した動物の世話や、地方自治体との連携による動物園の改装、改装できなくてもできるだけ動物の生態を考慮しながら展示方法を変えてみる取り組み。

 

この二冊を読むと、また動物園に行きたくなること、請け合いです。