今月の本 : 「もうひとつのどうぶつえん―絶滅どうぶつものがたり」
「もうひとつのどうぶつえん」はとてもかわいらしい。そして、とても哀しい。
この絵本は、芸術家である宮川アジュ氏が、10数年かけて制作した、世界の絶滅動物をモティーフに作成した立体作品の一部を紹介したものだ。
これまでに作られた絶滅動物は120種余り。絶滅動物の立体作品を紹介したサイト 「戦え絶滅動物」は、Yahoo!ジオティーズ賞を受賞するなど、高い評価を受けている。
絵本では、「不思議の国のアリス」で有名なドードー鳥、北大西洋に暮らしたペンギンの元祖のようなオオウミガラス、シマウマとロバが合わさったような「クアッガ」という鳴き声が奇妙な「クアッガ」、などなど、今はもう、生きている姿を見ることができない絶滅動物が紹介されている。
日本人になじみが深い絶滅動物に、ニホンオオカミがある。
ニホンオオカミは、かつては農地を荒らすイノシシやシカを退治する、農耕の守護神でもあった。オオカミという名前の由来は、「大神」からきているのだそうだ。「送りオオカミ」という言葉は、縄張りに入ってきた人間を見つけると、縄張りから出ていくまで、人間の後をつけていることから、生まれた言葉だ。
しかし、明治期に人間の手による捕獲や、海外からやってきた犬から移されたジステンバーという伝染病が影響し、その数は減少する。環境破壊による生息地の減少も打撃となった。
ニホンオオカミは、1905年に猟師に捕獲された1頭が、公式に認められた最後の1頭となった。
ニホンオオカミが絶滅した後、かつてニホンオオカミがいたことでその数が調整できたシカやイノシシの数は増えてしまった。一つの種が絶滅した結果、人間の里に下りてきて、田畑を荒らす動物が増えてしまう。農耕の守護神が姿を消した代償は、あまりにも大きい。
「もうひとつの動物園」は、DVDにもなり、人間の手によって絶滅した動物を、子どもにもわかりやすく紹介している。宮川氏の作品を集めた図鑑「絶滅動物ミュージアム」(創美社、2010年)は、51種の絶滅動物を紹介しているが、子どもたちにとっては、恐竜図鑑を見るように、眺めることができるかもしれない。違うのは、絶滅の理由が人為的だ、ということだ。
絶滅動物が哀しいのは、長い長い進化の歴史の中で生まれた生物種が、わずか200年余りの間に姿を消してしまったことだ。その多くが、近代化と植民地の歴史、人口の増加の中で、食料として撃ち殺されたり、人間の残虐性、楽しさだけで殺されてしまった。
フロンティアの拡張の中で、面白半分に殺されたバッファロー、50億羽もいるから大丈夫!とばかりに撃ち殺されたリョコウバト、島にきた1匹のネコによって絶滅した、スチーブンイワサザイ、、、「もうひとつの動物園」に登場するひとつ間違えるだけで、簡単に絶滅する怖さを教えてくれる。
宮川氏の作品以外にも、絶滅した動物を紹介する本は多い。ロバート・シルヴァーバーグ「地上から消えた動物」(佐藤高子訳、早川書房、1983年)は、人間の手によって失われた生物種を、詳細に紹介している。
もちろん生物多様性を語る上で、絶滅動物は、ひとつのトピックスでしかない。しかし、ニホンオオカミの末路を考えるとき、農耕の守護神が失われたことで、人里が獣に荒らされるようになったという現状を見るとき、私たちは、生態系の脆弱さと、ひとつの生態系が破壊された結果の大きさに改めて考えざるを得ない。
先日、地球の進化の歴史を1年間に例えると、という話を聞いた。地球の歴史46億年を1年に例えると、人類誕生は大みそかの夕方なのだそうだ。そのわずかな人類の歴史が、絶滅動物を作り出し、そして今なお危機的状況に置かれている動物を増やしていると考えたら・・・?
この絵本を読んで、ぜひ私たちがしてきたこと、考えてみてください。
絵・立体:宮川アジュ
文:富田朋子
発行:ひさかたチャイルド (2009年)