What’s “BIODIVERSITY(生物多様性)”?

生物多様性(biodiversity)は、人間だけではなく、動物、植物、微生物など、あらゆる命が、さまざまにつながり合い、支え合うことを意味しています。1992年にできた生物多様性条約は、「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系、その他のさまざまな生育の場をすべて含む)がいろいろな変異をもつこと。種内の多様性、種間の多様性、および生態系の多様性を含む」(第2条)と定めています。
生物多様性を大きく分けると、 (1)種の多様性(2)相互作用の多様性(3)生態系の多様性(4)遺伝的な多様性に分けることができます。

(1)DIVERSITY OF SPECIES(種の多様性)

生物多様性という言葉でまず思い浮かぶのは、山や森、海などのあらゆる場所でくらすたくさんの生きもののこと。現在、地球上には推定3000万種の生きものが住んでいると推定されています。森や湖などの様々な生態系にたくさんの種類の生き物がすんでいるとき、「生物多様性が高い」といいます。

(2)DIVERSITY OF CO-ACTION(相互作用の多様性)

しかし、数の多さだけが大切という訳ではありません。
例えば絶滅危惧種であるツシマヤマネコ、野生の環境で生きていくためには、ヤマネコのエサとなるネズミなどの動物も保護しなければなりません。
さらに、エサとなるネズミが暮らせるように、ネズミのエサとなるどんぐりの木を増やしたり、穀物を育てる畑や田んぼも整備したりする必要があります。また、ヤマネコの住みかとなる森の確保も必要です。
ヤマネコが生きるためには、多くの生きものが関わっています。このことを「相互作用」と言います。
すべての生きものが、他の生きものと関わって生きていることを「相互作用」と言います。生物保全には、保全しようとする種1種だけではなく、この相互作用が保たれるような保全が必要です。

(3)DIVERSITY OF ECOSYSTEMS(生態系の多様性)

生き物の中には、ひとつの生態系だけでは生きていけないことがあります。
たとえばツシマヤマネコは、森で生活していますが、エサを求めて、里山に降りてくることもあります。多様な生物が生きていくためには、多様な生態系も必要です。
現在、ツシマヤマネコは絶滅の危機にさらされています。減少した理由には、開発によって、すみかである森の木を切られたこと、道路ができたことで生息地が分断されたこと、餌場となっていた山間の田畑が減ったこと、ネズミのエサとなるどんぐりなど、広葉樹林が減少したことなどが挙げられます。
ツシマヤマネコが暮らしていける環境が守られていなければ、ツシマヤマネコが保護することは困難です。
これだけ見ても、ツシマヤマネコの保護のためには、様々な生態系を保護する必要があることが分かります。

(4)GENETIC DIVERSITY(遺伝的な多様性)

生き物は、1個体だけでは繁殖ができません。生物には性(雄と雌)があり、遺伝子を交換しながら子孫を残しています。つまり、雄と雌のある生き物では、両性がそろわなければ子孫を残せません。現在、福岡市動物園で、ツシマヤマネコの繁殖が試みられています。しかし、1組のカップルだけで子どもを作り続けても、子どもたちはみな兄弟姉妹になるため、遺伝的には多様性が非常に低い状態にあります。これらの個体を組み合わせて繁殖を続けても、ある病気や天敵に弱かったり、近親交配の繰り返しで有害な遺伝子が蓄積されている可能性があります。
病気にかかりにくい個体、厳しい環境に強い個体などいろいろな遺伝的個性を持った個体がいることで、初めて種の維持が可能になるのです。

BLESSINGS OF BIODIVERSITY(生物多様性のめぐみ)

なぜ生物多様性を守る必要があるのでしょう?
私たちの生活は、生物多様性なしでは成り立ちません。
例えば昨日の夕食。何種類の食材を食べたでしょうか?例えばナスやキュウリなどの野菜でも、実となるためにハチの受粉が必要だったり、栄養を吸収するために土の中の菌類が不可欠だったりします。
また、私たちの衣類や、家具など、私たちをとりまくあらゆるものが、自然の恵みの恩恵を受けています。病気になったときに服用する医薬品も、開発には植物からの遺伝子情報が欠かせません。
私たちの生活全体も、自然に守られています。海辺では、マングローブやサンゴ礁があることで、津波の被害が軽減されたり、森があることで、土砂崩れや洪水から守られています。それだけではなく、各地、国ごとに異なる自然は、固有の文化や伝統も生み出しました。自然の恵みなしに、私たちの安定した、豊かな生活は成り立たないのです。

BIODIVERSITY CRISIS(生物多様性の危機)

現在、生物多様性は危機的な条項にあります。恐竜時代に比べて数百~数千倍の速さで、生きものたちが絶滅していると言われています。絶滅の主な原因は、私たち人間によるものです。
大量に木材を伐採し、海を埋め立て、農薬で害虫も益虫も殺してしまった結果、豊かな自然の恵みを受けることが、難しくなっています。過疎化が進む中で、管理できずに荒廃した里山では、生態系バランスも崩れてしまいました。シカの増えすぎによる獣害も、そのひとつと言われています。
地球温暖化の影響も深刻です。平均気温が1.5~2.5度上がるだけで、動植物の20~30%の絶滅のリスクが高まるといわれています。
日本で現在絶滅の恐れがある野生生物は、全体の約3割。絶滅危惧種は3155種に上ります。

WTHA’S “COP10”?(COP10とは)

生物多様性は国境を越えて考えるべき問題です。世界中で取り組むために、1992年に「生物多様性条約」が作られました。2010年現在、192の国と地域が条約に加盟し、生物多様性の保全や技術援助、調査研究などに取り組んでいます。
加盟国が2年に1回、集まるのが、締約国会議(COP: Conference of the parties)です。1994年から始まり、2010年の今年は、COP10、第10回目の会議が、愛知県名古屋市で開催されます。

WHAT’S SATOYAMA?(里山とは)

里山とは、集落、人里に接した山において人間の影響を受けた生態系が存在している状態のこと。水田や雑木林、ため池、鎮守の杜、など様々な要素がモザイクのように入り組んだ環境を指します。国土の大半を森におおわれた日本では、かつて、森や山の中で、自然と調和した生活が営まれてきました。
薪を取るために山に入っても、必要なだけ伐採する。伐採後は木を植え、森林の維持に努めました。落ち葉や下生えは田畑の肥料に利用されました。里山に入って薪やキノコを得ることは、現金を得る手段でもありました。生きものにとっても、里山は、住みやすい生息地でもありました。
ため池にカエルが住んだり、そのカエルをエサとする小動物が池に来たりしました。人と生き物の暮らしが交わる場所が、里山でもあったのです。
里山にみられた自然と共に生きるという概念は世界各地にみられます。昔ながらの智恵を使い、自然の恵みに寄り添いながら暮らす生活は、農業・林業・畜産・漁業で生計を立てる人々によって維持され、独自の景観や文化を生み出してきました。
しかし、近年、日本だけではなく世界各地で、都市化等によって里山のような景観や文化は失われつつあります。国連大学高等研究所と環境省が進めている国際的な取組み「SATOYAMAイニシアティブ」は、世界各地で、伝統的な方法に学びながら、土地と自然資源の適切な利用や管理の方法を探り実践することで、自然を守り、また人間も豊かで幸せな生活を送れるようになることを目指しています。

VISIT TO BIODIVERSITY(生物多様性を訪ねて)

名誉大使として、MISIAはこれまで対馬(長崎県)、屋久島(鹿児島)といった、豊かで、固有の生物多様性を有する地域を訪れました。
中学校まで対馬で住んでいたMISIA。
対馬で自然いっぱいの生活を送っていたそうです。学校の行き帰りに秘密基地を作って遊ぶことも。雨の日にはカタツムリをたくさん取ってランドセルにくっつけたり、カブトムシをブローチのように胸につけてみたりとか。森からのおやつ、野イチゴもよく食べていたそうです。
リアス式の海岸線が続く対馬では、山と海が非常に近いということもあり、魚釣りも子どもの人気の遊び。MISIAもアジを一度に60匹(!)釣ってご近所におすそ分けしたそうです。
自然の中で遊ぶことが多かったMISIA。自然がいつも側にあるという経験が、名誉大使になった今も、活きています。

監修:中静 透(東北大学大学院生命科学研究科教授)